アーティストの三上晴子が1990年代以降に国内外で発表したインタラクティヴ・インスタレーションは、人間が世界と接続し関係を結ぶ端緒となる知覚行為そのものをテーマとしています。「眼は単に視るものではなく、耳は単に聴くものではない。すなわち、耳で視て、鼻で聴いて、眼で触ることが可能である」*1と本人が書いているように、三上はメディア・テクノロジーを駆使し、鑑賞者が自分自身の知覚とインタラクションのメカニズムに向き合わされる体験を複数の作品によって提示しました。そして、それらを総合した「知覚の美術館(あるいは大霊廟)」*2の構築を目指しました。
三上は生前、1980年代から90年代までの作品の多くを廃棄していますが、2015年の急逝を機に、近年は、1990年代前半の4作品が東京都現代美術館に収蔵されるなど、現代美術の分野においても三上の再評価の機運が高まっています。一方で、規模が大きく作品設置に複雑な工程を要することから、インタラクティヴ作品の再展示の機会は限られています。三上の大型インスタレーション作品3点を同時に展示する機会は国内外でも初めてのこととなります。
また三上は、展示の機会があるたびに最新の技術を取り入れて作品をアップデートすることに極めて積極的でした。その経緯を踏まえ、委嘱元である山口情報芸術センター [YCAM] (以下、YCAM)や当時の作品制作関係者によって、作家の死去後も修復や一部再制作が行なわれています。また、YCAMと多摩美術大学の共同研究により、作品だけでなく鑑賞者の作品体験データやその他の資料の保存に関して、メディア・アートに特化した新しい方法論が検証・探究されるなど、三上の作品をめぐって、さまざまな試みが続けられています。
ICCにとって三上は、開館前のプレ活動期よりさまざまな活動を通じて関係を深めてきたアーティストのひとりです。本展では、三上が1990年代後半以降に発表したインタラクティヴ・インスタレーションを複数展示します。作品展示のほか、作品がアップデートを重ねてきた変遷や、現在進行中の修復やアーカイヴの取り組み、また作品のアーカイヴ・データの活用事例なども併せて紹介します。会期中には、三上と親交のあったアーティストや研究者を招いたトーク・イヴェントなどを開催予定です。
*1、*2 ともに出典:『SEIKO MIKAMI:三上晴子 記録と記憶』