冬号では、北海道の知床を特集しています。
原生林、流氷、サケ、エゾシカ、ヒグマ──。広大な自然と多くの生きものが棲む知床半島は、火山活動で生まれた特異な地形、流氷が運ぶ多様な生物、有機的に循環する類まれな生態系によって形づくられています。1964年に斜里町と羅臼町に跨るエリアが知床国立公園に指定され、2005年に知床半島とその沿岸海域が世界自然遺産に登録されました。登録に大きな役割を果たしたのが、地元の自治体による半世紀にわたる自然保護活動でした。
1970年代、国立公園内の開拓跡地が乱開発の危機にさらされた際、土地を管理する斜里町の藤谷豊町長は朝日新聞「天声人語」(1977年1月16日)で紹介された英国の市民運動「ナショナル・トラスト」に着目し、1口8,000円の寄付で購入した土地を植林して森に戻そうという「しれとこ100平方メートル運動」を立ち上げました。きっかけとなった「天声人語」のコラムは、『approach 1976冬号』に掲載した環境学者 木原啓吉氏の巻頭文を読んだ記者が執筆したものでした。
運動は全国に広がり、1997年に寄付金が目標額の約5億2,000万円に達し、対象地471haの大部分を取得。この過程で培われた理念は、森林行政の転換や日本ナショナル・トラスト協会の発足にもつながり、市民参加の環境保全活動の可能性を示しました。運動開始から50年後の現在、町有地と合せて861haを管理する斜里町は、「夢を買う」から「夢を育てる」へと歩みを進め、活動を広げています。2024年に国立公園指定60周年、2025年に世界自然遺産登録20周年を迎えた知床の環境保全の歴史は、人間社会がいかにして自然と共生していけるかを問いかけています。
特集では、広大で美しい知床連山や根室海峡の流氷などと野生動物を水越武氏の写真で紹介。また、京都大学の加藤尚武名誉教授に「過去と未来はどちらが長いか」について、知床自然アカデミーの中川元業務執行理事に「しれとこ100平方メートル運動から世界自然遺産登録へ」、北海道大学の小野有五名誉教授に「シレトコの自然」についてご執筆いただきました。
デジタルブックをweb公開していますので、ぜひご一読ください。
和版 https://www.takenaka.co.jp/enviro/approach
英版 https://www.takenaka.co.jp/takenaka_e/library/pr_magazine
株式会社竹中工務店の「季刊誌 [approach] 本誌およびwebの制作・発行」は、全国各地で行われる、芸術文化を通じて豊かな社会づくりに参加する“企業メセナ”を顕在化し、その社会的意義や存在感を示すことを目的とした企業メセナ活動を認定する制度「This is Mecenat」に認定されています。







