資生堂ギャラリーは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防・拡散防止のため、3月1日から臨時休館としておりましたが、中断していた「記憶の珍味 諏訪綾子展 Taste of Reminiscence Delicacies from Nature」を更新し、再開することとなりました。
諏訪綾子は、本能的な無意識の感覚に訴えることのできる表現媒体として「食」を扱い、体験者に新たな問いや発見をもたらすことを追求する、現在、世界で高い注目を集めるフードアーティストです。
今年の1月18日から開催していた展覧会では、誰もが個人的にもっている記憶をテーマに新たな「食」の表現に取り組みました。諏訪は、記憶を私たちの意識であると同時に無意識でもあり、私という自己そのものと捉えます。展覧会を通じて記憶を美しくかけがえのない珍味として「あじわう」ことで、「わたし」自身をあじわう体験の創出に挑戦しました。また、そこで諏訪が表現した「食」の体験は、自然の美しさや儚さを感じ、それを和歌に詠み、香を聞き、茶を点てるという遥か昔から日本人が行ってきた他者との「感覚の共有」であり、同時に日本人の美意識や精神性を育んできた「自然からのインスピレーション」を受け取って自らの感覚を研ぎ澄ませるという体験でもありました。
現代の文明社会に生きる私たちにとって、自然に寄り添い感じ取られる感覚を他者とともに共有することは、もはや貴重な経験となったのではないでしょうか。自らの記憶を他者と共有することによって開かれていくコミュニケーションや「自然からのインスピレーション」を体感することは、日本人が受け継いできた繊細な美意識や内面的な精神性という捉えがたい感覚を他者と共有し、「わたしとは何ものなのか」という問いに想いを馳せる機会となるはずです。
資生堂は日本をオリジンとし、日本人の美意識と精神性に育まれた繊細な美しさを今の時代に更新していくことで、人々の生活をより良いものへとすることを使命としています。本展が紹介する、記憶をあじわうことがもたらす「自然からのインスピレーション」を共有する体験が、私たちの日常の新たな刺激と楽しみのきっかけとなることができれば幸いです。