「椿会」は、第二次世界大戦で一時中断していた資生堂ギャラリーの活動を、1947年に再開するにあたり誕生したグループ展です。アートが人々に希望を与え、勇気をもたらすという信念に基づき、戦争や災害、不況などで世の中が閉塞状況にあるときにも再興を願い開催してきました。
2021年にスタートした第八次椿会は、2023年まで3年間をかけて、afterコロナの「あたらしい世界」について考えてきました。メンバーは、杉戸洋、中村竜治、Nerhol (ネルホル)、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]。この6組は、ジャンルを超えた活動やコラボレーション、チームでの制作などを行う、今の時代を代表するアーティストたちです。
コロナ禍は、アーティストたちの心境や世の中に向けるまなざしにも変化を与えました。2021年は「触発/Impetus」というテーマの下、資生堂がこれまでの椿会展で蒐集してきた美術収蔵品から、メンバーが「あたらしい世界」を触発される作品を選び、それに応えるかたちで自身の作品を共に展示しました。それは、アーティストや作品といった個を強く意識しながら過去と現在の「椿会」を結びつける展覧会でした。昨年は、「探求/Quest」をテーマに、メンバー同士のアイデアの共有を深め、それぞれの作品や大切にするものを素材として持ち寄り、展覧会自体が1つの作品のようなコレクティブな空間をつくりました。
今年も「あたらしい世界」における「豊かさ」への探求を継続するなかで、新たに「放置」と「無関心」というキーワードが浮かび上がりました。それらには、自ら決断するのではなく自然のままに「放置」することや、「無関心」に関心を向けることで、あたらしい価値が生まれるのではないかという思いが込められています。その背景には、コロナで加速した管理体制へのささやかな抵抗や、一方では、他にゆだねることや、思いもよらぬ事物について知ることが、新たな共生の在り方や自由で豊かな世界をつくっていくことに結び付くのではないかという期待があります。そこでたどり着いたのが“ただ、いま、ここ”を大切にしたいという思いです。最終回となる本展では、3年間で構築したメンバーの関係性や経験をもとに、それぞれが3年間の集大成となる作品を新たに作成し、昇華する展覧会をつくりあげます。