京都dddギャラリーにて開催されるこの展覧会では、ヴェロニカの手による過去20年間の作品を多岐にわたって展示します。その内容は、本や雑誌、その他の出版物、展覧会用デザイン作品をはじめとした様々な印刷物です。会場では、この展示会のためにデザインされた展示用のスタンドを、ひとつひとつ高さや方向を変えて設置することで、いろいろな視点から作品を見ることができ、それによって作品の素材感と立体感を際立たせる展示法をとっています。ギャラリーに集め られたこれらの印刷物がひとつの風景を創り出し、集合体としてのヴェロニカの制作物が持つ本質的特徴が浮き彫りになっています。
今回展示される主なプロジェクトのひとつに、『ザ・ジェントルウーマン』誌があります。ザ・ジェントルウーマンは、ある小さなチームが2010年に創刊したもので、同誌の持つ唯一無二かつ非常に影響力を持つ感性は、ヴェロニカがチームの一員として創造し、進化させてきたものです。
展示では、同誌の考え抜かれたレイアウトと、読者に人気の高い情報ページにフォーカスがおかれており、編集に対するヴェロニカのアプローチ手法を明確に見て取ることができます。また、エルメスのビューティ部門立ち上げを牽引した多くの印刷物も展示されます。ここでは、ビューティ製品そのものの特性とヴェロニカ自身の色使いとの比率に関して、ヴェロニカが見せた駆け引きの手腕が際立ちます。これらのプロジェクトは、アーティストブック、エディトリアル、展覧会デザインとともに展示され、ヴェロニカがそうした作り手たちと築いているユニークな関係性を表わしています。さらにこの展覧会では、完成品だけではなく、写真家チュウ・ヤンよる模型やダミー、校正刷り、デザインスケッチなどの素材を集めた大規模な写真作品も展示されます。複雑に構成され、美しく照らし出された作品たちを目にすると、それぞれのデザインプロセスを感じられるだけでなく、アーカイブの範囲とスケールも伺い知ることができます。そしてまた、ヴェロニカがクリエイティブディレクターとして特に重視する、写真の依頼という仕事についての示唆もあります。
作品キャプションには、各プロジェクトの素材とプロセスについて詳しい記載がありますが、そこにはまた、グラフィックデザインを三次元的に鑑賞することを推奨する意図が込められています。とは言え、この展覧会では、やはりまず作品に対する即時的かつ官能的な反応が励起されます。それこそが、何にも増して印刷物の可能性に対する祝福なのです。
エミリー・キング (本展キュレーター/デザイン史家)
■オープニングパーティ
日時:2024年6月8日(土) 16:30-18:00
会場:京都dddギャラリー内
■主催 l 企画 l 日本語レイアウト l 協力
主催:公益財団法人DNP文化振興財団
企画:エミリー・キング
日本語レイアウト:ニコール・シュミット
協力:Favini
■プロフィール
スタジオ・ヴェロニカ・ディッティングは、クリエイティブ・ディレクションおよびデザインを専門とするスタジオ。ロンドンを拠点とし、ファッションメーカー、アーティスト、文化施設などの国際的なクライアントを持ち、キャンペーン、ブランディング、エディトリアル、展覧会デザインなど、手がけるプロジェクトは多岐にわたる。ヴェロニカは、『ザ・ジェントルウーマン』誌のクリエイティブ・ディレクターとして、12年間、同誌の出版に携わり、2010年の創刊号から計24冊を制作。決然としたエディティング姿勢から生まれるパワフルで個性的なアプローチで知られるヴェロニカは、写真家、アーティスト、編集者、ライター、キュレーターらとの緊密な共同作業を通して、概念を最も確かな形に具現化する。主な顧客は、エルメス、ザ・ロウ、ルイ・ヴィトン、 メゾン・マルジェラ、ティファニーなどのファッションブランドと、サマセット・ハウス、ヘット・ ニューウェ・インスティトゥートなどの文化施設。2005年にヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業。デザイン・ミュージアム(ロンドン)のデザイン・オブ・ザ・イヤー賞、D&AD賞、 オランダデザイン賞などの受賞歴を持つ。
エミリー・キングは、ロンドンを拠点とするデザイン史家、キュレーター。専門はグラフィック デザイン。1999年、デバイスに依存しないデジタル時代黎明期のタイプフェイス・デザインに関する論文で博士号を取得。以降、アラン・フレッチャー、リチャード・ホリス、ロバート・ブラウンジョンなど、数多くの著名デザイナーの展覧会を企画した。また、「グラフィックデザインにおける時間の役割と表現」「装飾の力」などのテーマでグループ展覧会も行っている。近年手掛けたプロジェクトには、韓国人グラフィックデザイナー、ナ・キムと、オランダ人アーティスト、マガ リ・レウスのカタログのエッセイがある。