いわゆる視覚を中心にした表現領域である「美術(visual arts)」に対し、聴覚を中心にした表現として「サウンド・アート」があります。サウンド・アートでは楽音(楽器で演奏される音)によらない、自然環境音を録音した素材などの、さまざまな音が使用され、「聴くこと」自体を主題とするなどの特徴によって、同じく聴覚による芸術表現である音楽と区別されています。それは、聴くことから広がる知覚世界の提示という側面を持っています。ゆえに、サウンド・アートは、見ることに偏重した美術に対して、もうひとつの見ることを提示する表現でもあると言えるでしょう。
evalaは、2000年代以降、個人としての活動のみならず、多くのコラボレーションを行なうなど、幅広い分野で活躍する音楽家でありサウンド・アーティストです。2017年からは、新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を国内外で展開しています。ほぼ音だけで構成されているにも関わらず鑑賞者の視覚的想像力をも喚起する作品群は、既存のフォーマットに依拠しない音響システムを駆使した独自の「空間的作曲」によって、文字通り「耳で視る」ものとして高い評価を得ています。
2013年にevalaと世界的なサウンド・アーティストである鈴木昭男とのコラボレーションとしてICC無響室で制作、発表された《大きな耳をもったキツネ》は、後に「See by Your Ears」となるevalaの活動の方向性を定めた原点と位置づけられる作品となりました。
「evala 現われる場 消滅する像」展は、作家の活動史においても重要な作品を制作するきっかけとなったICCを会場に開催される、「See by Your Ears」シリーズの、本展のための新作を含めた、現時点における集大成となる展覧会です。《大きな耳をもったキツネ》や、そこから発展し多くの国々で発表されてきた作品、さらにICCで最も大きな展示室を全室使用した大型インスタレーションほか、複数の新作によって、精緻に構築された音響空間のなかで、聴くことと見ることが融け合う新たな知覚体験をさまざまな方法で提示します。
【evala プロフィール】
音楽家、サウンド・アーティスト。
新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」主宰。立体音響システムを駆使し、独自の“空間的作曲”によって先鋭的な作品を国内外で発表。
2020年、完全な暗闇の中で体験する音だけの映画、インヴィジブル・シネマ『Sea, See, She – まだ見ぬ君へ』を世界初上映し、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。2021年、空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base ‒ HPL ver』がアルス・エレクトロニカ 2021 デジタル・アート&サウンド・アート部門にてオノラリー・メンションを受賞。
近作に、世界遺産・薬師寺を舞台にした《Alaya Crossing》(2022)、《Inter-Scape 22》(東京都庭園美術館,2022)、《Haze》(十和田市現代美術館,2020)、ソニーの波面合成技術を用いた576ch音響インスタレーション《Acoustic Vessel “Odyssey”》(SXSW,オースティン,2018)、無響室でのインスタレーション《Our Muse》(国立アジア文化殿堂 [ACC],光州,2018)、《大きな耳をもったキツネ》(ICC,2013, 2014, 2023/Sonar+D,バルセロナ,2017)など。
また、公共空間、舞台、映画などにおいて、先端テクノロジーを用いた独創的なサウンド・プロデュースを手がけている。大阪芸術大学音楽学科・客員教授。
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企画:畠中実
キュレーター:畠中実、指吸保子
キュレトリアル・チーム:鹿島田知也、赤坂恵美子、宮脇愛良