パフォーミングアーツの現在地
2024年度に始動した、いわきアリオスとDance Base Yokohama(DaBY)の連携は2年目を迎え、地域を越えて創造の現場をつなぐ交流が深まりつつあります。なかでも2021年より現代的な作品を紹介してきた「パフォーミングアーツ・セレクション」は進化を遂げ、身体表現にフォーカスした作品をあえて「ダンス」ではなく「パフォーミングアーツ(上演芸術) 」と呼ぶことで、身体・言葉・音・空間が交錯する舞台表現の可能性を開いています。
例えば、DaBYでも創作を行い、各地で意欲的な上演を続ける小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクの活動は、演劇やダンスの枠を越え、観客との関係そのものを問い直すものです。彼らの実践にも見られるように、DaBYが掲げる「フェアクリエイション=健全な創作環境」の視点は、作品の在り方だけでなく、創作の現場や社会との関係にも大きな示唆をもたらします。
今回のトークでは、こうした実例を交えながら、創作の現場で今何が起きているのか、そしてパフォーミングアーツが社会にどのような問いや関係をもたらしているのかを、皆さんとともに考えていきたいと思います。
―― 唐津絵理
「身体の経験を交差する」体験型トークに寄せて
「身体(からだ)の経験を交差する」は、別名「スクランブル交差点」と呼んでいるワークショップです。参加者全員が車座で椅子に座ります。座っている「椅子」をA(現在地)とし、それぞれの頭の中で「別の椅子」をB(目的地)として定めます。手を叩く音が聞こえたら、全員同時にA(現在地)からB(目的地)に歩いて移動します。目的地が他者と重なってしまった場合には、偶発的に生じる「空いている椅子」を目的地に変更し、全員が座り終わるまで移動を続けます。AからBの移動、そしてBからAの移動を反復します。その後「一度目の再現」を目指して、「練習」を複数回繰り返します。最後に一人ずつで「一度目の再現」を行ない、それを「上演」として取り扱います。
私たちが舞台芸術を創造する際に特に重要視すること。それは物事を── 特に個人に帰属する物事を ──、一つの価値に収めないようにすることです。私たちはこのトークで私たちの考えを発信しようとします。しかし私たちはその考えが皆様に適用できるか否かを判断しません。誰かにとってまるきり無関係な物事を、誰にもそんな物事などないのだという強調もしません。皆様が体験し、トークを聴いていただき、皆様の「身体の経験」に役立つ物事がもしもたった一つでもあれば、それは何より嬉しいことです。これは、舞台芸術における一つの場所に不特定多数の「他者」が集まるという性質を純粋に「上演」に変換しようとする試みの体験と、私たちの「身体の経験」を共有するトークです。ご来場お待ちしております。
―― 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
■出演
唐津絵理(Dance Base Yokohama/愛知県芸術劇場 アーティスティックディレクター)
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク