【ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲シリーズ第2章 情熱の軌道】
アニバーサリーイヤーに向けて進む、《彗星 8つの軌道》。ベートーヴェンが生涯をかけて書き続けた32曲のピアノ・ソナタを、8人のピアニストで辿ります。プログラムは音楽アドバイザー堀 朋平が監修。各回が初期・中期・後期を横断しながら、それぞれ独自の“軌道”を描きます。
Vol.2に登場するのは、アブデル・ラーマン・エル=バシャ。その演奏は、外面的な効果ではなく、音楽の内側にある構造や必然性を照らし出し、聴く者を作品の核心へと導きます。
彼はベートーヴェンの作品についてこう語ります。「ベートーヴェンにとって、それぞれの調性は独自の音楽世界です。その調性から、特別な感情や表現が生まれます。」
本公演はいわゆる後期作品を含まず、若きベートーヴェンの創造力が鮮やかに発露する構成です。全体は「ヘ短調」という情熱と受難の調で始まり、同じ調へと帰結する“情熱の軌道”。
第18番《狩り》(変ホ長調)は生命力に満ちた伸びやかな音楽でありながら、ヘ短調の陰影を内包し、次の展開を予感させます。第24番(嬰ヘ長調)はこの軌道から半音だけ隔たり、内容的には最も遠い優しさと繊細さをもつ対照的な存在です。第25番(ト長調)は小さなソナチネでありながら、穏やかな光を投げ込み、全体の緊張関係をしなやかに保ちます。
そして最後に置かれた《熱情》。この作品は単独でもコンサートを成立させるほどの圧倒的な重みを持ちながら、あえて近接する作品に囲まれることで、その激しさと深さを一層際立たせます。初期のヘ短調に含まれていた緊張は、ここで極限まで押し広げられます。
エル=バシャはまた、ベートーヴェンの音楽をこう語ります。
「ベートーヴェンの音楽は私にとって人生における信念であり、どのように生きるべきかを示してくれるものでした。そこには普遍的な愛や正義への思い、人間同士の連帯への信念が込められているのです。」






