柏原は、透明性と濃密さが共存した生命力溢れる作品世界をつくりあげています。油絵の具を日本画のように薄く溶き、同時にアクリル、テンペラ絵具も用い、独特な深い色彩を表しています。柏原の作品には、渡独して制作を続ける彼女のドイツと日本の物理的、精神的な距離への興味が、洞窟、穴、山、湖といったモチーフにシンボリックにあらわれ、それらは大地にひそむ根源的な自然のエネルギーをも喚起させています。柏原にとって、昨年の個人的な経験は、絵を描く行為を改めて見つめ直す大きなきっかけとなりました。街中で偶然見かけた檸檬の木が忘れられず、人は何に美しさを見出すのかという根源的なテーマを考える中で生まれたのが、今回の新作です。
展覧会タイトルの「檸檬」は、人間が抱えている辛さ、美しさのメタファーであり、実際に檸檬は描かれていません。また描かれる景色は現実には存在せず、柏原の頭の中にぽっかり浮かんだ景色を描いたもの、そして鑑賞者の経験、感覚によりどのようにも解釈出来るもの、という象徴であるとも言います。本展において、鑑賞者ならではの内なる景色や「檸檬」を発見しにぜひお越し下さい。