1997年に急逝したグラフィックデザイナー亀倉雄策の生前の業績をたたえ、グラフィックデザインの発展に寄与することを目的として、1999年、亀倉雄策賞が設立されました。この賞の運営と選考は公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が行い、毎年、年鑑『Graphic Design in Japan』出品作品の中から、最も優れた作品とその制作者に対して贈られます。
第23回は、田中良治氏のインタラクティブデザイン「Tokyo TDC ウェブサイト」に決定しました。田中氏はウェブデザイナーとして活動を開始し、2003年にセミトランスペアレント・デザインを設立。デジタルメディアにおけるデザインや情報伝達コミュニケーションとその可能性を追求してきました。近年では、東京国立近代美術館等で開催された「トーマス・ルフ展」、近代建築物の歴史を辿る「三井本館1929-2019」、JAGDAが運営する情報と批評を軸にした「The Graphic Design Review」などのウェブサイトの企画・制作を手がけています。ウェブ分野にとどまらず、グラフィックデザインや展覧会の企画、国内外の美術館やギャラリーでの作品展示を行い、領域を横断した活動も展開。ウェブメディアを俯瞰的に捉え、優れたバランス感覚でシステムや構造に精通しながらデザインを行い、コミュニケーション手段として機能する本質的なウェブデザインのあり方を革新的に提示し続けています。
受賞作品は、東京タイプディレクターズクラブの団体情報を発信する「Tokyo TDC ウェブサイト」。簡潔に情報が整理されているだけでなく、読み手を意識した間や効率性に頼らない情報の届け方を多角的に思考するオリジナリティが端々に感じられます。時折、TDC会員のデザインによる様々な書体のデジタル時計がランダムに大きく画面に表示されるスクリーンセーバーは、その時に居合わせた読み手側の偶然性を双方向に取り入れています。選考委員からは「スクリーンセーバーの仕掛けが目立つが、むしろウェブを成立させるディテールの繊細な作り込みに彼の本質がある」「ウェブサイトは情報のデザインであり、作る人のセンスが特に問われる。ヴィジュアルな魅力だけではない奥深さがある」と高く評価されました。この受賞を記念して個展を開催いたします。