有山達也は、東京藝術大学を卒業後、中垣デザイン事務所を経て、1993年アリヤマデザインストアを設立。2002年の1号の刊行から15年まで76号にわたりアートディレクターをつとめた『ku:nel』や、現在手がけている東京藝術大学発行の『藝える』、座・高円寺のフリーペーパー、北九州市発行情報誌『雲のうえ』といった広報誌をはじめ、文芸書から料理本、写真集、漫画など、さまざまなジャンルのエディトリアルデザインを中心に、キャリアを重ねてきました。
編集者やライター、カメラマン、イラストレーターといった協働者と対話を重ね、それぞれの持つ力を効果的に引き出すアートディレクションや、独特のゆったりとした佇まいをもつレイアウト。手にとるものに、心地よい空気感と品の良さを感じさせるデザインを世の中に届けています。
また、デザインの仕事のかたわら、数千を超えるレコードコレクションとヴィンテージオーディオを持ち、音楽と密接に関わる生活を送る有山。東京初となる今回の個展で、テーマに選んだのは「音」でした。
音を生むレコード針とレコードの溝を接写レンズでとらえた、写真家の齋藤圭吾の著書『針と溝』(本の雑誌社)。この写真集のエディトリアルデザインを手がけた有山は、制作に関わる中で、「音」には「かたち」があるのではないかと思った、と言います。
今回の展覧会で有山は、齋藤との協働による、『針と溝』の世界をさらに進化させたヴィジュアル表現や、レコードの音を作り出すカッティングエンジニアやオーディオ機器を作っている人たちへの取材を通し、「音」の可視化に取り組みます。目ではかたちをとらえにくい、けれど空間に確かにたちあがる「音」の世界を、写真で、文字で、図像で、表現・構成します。有山によって可視化された「音」は、どんな表情を見せるのか。