自然との対話を通じて多くの作品を世に送りだし、風景画家と称される東山魁夷(1908 -1999)は、一方で長い歴史のうつろいを宿す町を愛し、はやくからその姿をスケッチに描きとどめてきました。
本展は、長野県信濃美術館東山魁夷館が所蔵する魁夷の欧州取材によるスケッチの数々を中心に構成し、前期53点、後期52点の作品を展示します。出品作には、旅のスケッチを元にした本制作約5点も含まれます。長い時間をかけて描かれる本画と異なり、スケッチにはその折々に画家に沸きおこる感興がそのまま表現されます。そこには魁夷の自由で解放された心の動きが感じられ、自然のなかで連綿と続けられてきた人間の営みとそれが創りだした町のたたずまいに抱く強い憧憬を、そして今なおそれを受け継ぎ、自然と調和しつつおだやかな暮らしをしている人々への深い共感を読みとることができるでしょう。欧州の古き町を作品とともに辿りながら、美しい風景を見つけていただければ幸いです。