アートディレクター、葛西薫(1949–)は、サントリーやユナイテッドアローズなどの広告をはじめ、パッケージやCI、本の装丁など多岐にわたる活動で知られ、その独自の表現はデザイン界にひとつの潮流を形成しました。彼の作品は、巷にあふれる声高に主張するのみの広告とは一線を画しています。それらは一方通行のコミュニケーションではなく、受け手がそれぞれに何かを感じ、想像を膨らませる余地を含み、完成した広告やポスターの向こう側にも世界や物語が広がる包容力が感じられます。どの作品もある種の情感を宿しており、誰しもが持つ、心の奥底にある閉ざされた記憶が呼び覚まされるかのようです。
葛西の作品はその繊細さ、温かさの根底に確かな芯をもち、揺らぐことがありません。それは、作品がただ個人的な感覚から生み出されているわけではなく、広告現場の共同作業におけるアートディレクターとしての客観的なアプローチと彼自身のクリエイティビティとが両立し、そこに葛西が幼いころより培い身中に浸透している職人気質も加わって、それらが巧みなバランスを取りながら創出されているからではないでしょうか。
本展では、広告をはじめ多方面で活躍する葛西の仕事の中から、ポスター作品をご紹介します。1970年代から近作までの代表作を中心に仕事を広く展観し、葛西デザインの軌跡をたどることにより、世代や層を超えて求め続けられる葛西薫の仕事に触れる機会となれば幸いです。